ウェイコ(Waco)のダウンタウンを歩くと、まず目に飛び込んでくるのが、空に向かって垂直に伸びるアリコ・ビル(ALICO Building)です。町のどこからでも見ることのできるベージュ色の外壁に“ALICO”の赤いサインが掲げられた姿は、地元の人々にとって長年変わることのない象徴のような存在です。20世紀初頭に建てられたこのビルは、テキサス州で最も歴史ある高層ビルのひとつとして知られています。
アリコ・ビルの建設が始まったのは1910年。翌1911年に竣工すると、その高さはミシシッピ川以西で最も高く、アメリカ南部の近代建築を象徴する存在として注目を集めました。当初は8階建ての計画でしたが、同時期にダラスで建設が計画されていたアドルファス・ホテルに対抗する形で、最終的に地上22階建ての高層建築へと拡張されたとされています。建物名の「Alico」は、当時テキサスを拠点に事業を広げていた Amicable Life Insurance Company(アミカブル生命保険会社)の略称で、同社の本社ビルとして誕生しました。独自の発電所を備えるなど、当時の最先端技術とデザインの粋を集めたプロジェクトで、完成から100年以上が経った今も現役のオフィスビルとして活用されています。
アリコ・ビルが「強さと安定性の象徴」として語り継がれる理由のひとつに、1953年にウェイコを襲った大規模竜巻があります。テキサスの災害史に残るこの竜巻は町に甚大な被害をもたらし、ダウンタウンの多くの建物が倒壊しました。しかし、アリコ・ビルはわずかな損傷で耐え抜き、その姿を保ち続けました。この出来事は、初期の鉄骨構造を採用した強固な設計の優秀さを示すものとして知られ、今も市民の間で語り継がれています。このような歴史的背景から、1982年にはテキサス州歴史的建造物に指定されています。
建物の外観はクラシカルな装飾を残しながらも、シンプルで端正なデザインが印象的です。縦に伸びる細長い窓、均整の取れた外壁ライン、そして屋上に掲げられた“ALICO”の看板は、20世紀初期のアメリカ高層建築らしさをしっかりと伝えています。現在は内部の見学が限られていますが、周囲をゆっくり歩きながらさまざまな角度で外観を楽しむのがおすすめです。夕方の柔らかな光が差し込む時間帯や夜間のライトアップされた姿など、写真映えするスポットとしても人気があります。


アリコ・ビルの周辺には、ウェイコの歴史や文化に触れられるスポットが点在しています。徒歩圏内には、人気観光地の Magnolia Market at the Silos や、ドクター・ペッパー博物館(Dr Pepper Museum)、テキサス・レンジャー博物館(Texas Ranger Hall of Fame and Museum)などがあり、これらと合わせてウェイコの町の歴史に触れる散策を楽しめます。
アリコ・ビルのあるウェイコは、ダラス(Dallas)とオースティン(Austin)の中間に位置し、I-35を利用するロードトリップの定番ルート上にあります。ビルが立つダウンタウンには無料の駐車場もあるので、公式サイトで詳細な場所や利用時間などを予め確認をしておくと便利です。
ウェイコの空にひときわ映えるアリコ・ビルは、町の記憶と復興の物語を静かに語り続ける存在です。ロードトリップの途中で少し足を止め、100年以上の歴史を持つこの建物を眺めてみてはいかがでしょう。

ALICO Building
Address: 425 Austin Ave, Waco, TX
Web Site: ALICO Building
photo:© Mark Randolph, Visit Waco © Visit Waco ©Travel Texas

